奈良に来る人のほとんどは、春日大社の参道を歩いて、鹿に煎餅をあげて帰ります。それはそれで奈良の一面ですが、参道から少し外れると、奈良時代から地形が変わっていない区間があります。

春日山原始林とは何か

春日山原始林は、奈良時代から伐採が禁止されてきた森です。面積は約250ヘクタール。ユネスコの世界遺産にも登録されています。春日大社の神域として保護されてきたため、1300年以上手が入っていない区間があります。都市の近くにこれだけ手つかずの森が残っているのは、世界的にも珍しいことです。

古道の歩き方

春日大社の本殿から東に向かうと、観光客の数が急に減ります。森の縁に沿った道は舗装されておらず、土と落ち葉の感触が続きます。この区間では意図的に説明を止めて、音だけを聞く時間を作っています。鳥の声、風が木を揺らす音、遠くから聞こえる鹿の声。それだけで十分な場所です。

季節ごとの見どころ

春は新緑が鮮やかで、光が柔らかいです。夏は木陰が涼しく、早朝に歩くと霧が残っていることがあります。秋は紅葉が美しいですが、観光客も多い季節です。冬の早朝は霜が降りて、森全体が静まり返ります。個人的には、冬の朝が一番好きです。

辻本製菓での休憩

古道を歩いた後、近くにある辻本製菓で休憩します。ご主人の辻本 清さんは、季節ごとに和菓子を変えます。夏は葛を使った生菓子、冬は温かい善哉。歩いた後の体に、その季節の素材で作られた菓子が入ってくる感覚は、少し特別です。

春日山原始林の縁を歩くことは、奈良の観光ルートには入っていません。だからこそ、歩いた後の記憶が長く残ります。